畜産技術/技術酪農

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カウコンフォートを追求したら酪農が楽しくなってきた

畜産技術振興センター 技術指導課 藤田 正彦

 カウコンフォートとは酪農用語で「乳牛の快適性」という意味です。牛床がソフトで乾いている。繋がれてはいるけれど行動は楽。きれいな水がたっぷり飲めて、飼槽にいつも新鮮な餌がある。こういう条件を整えてやると、乳牛はガツ食いをせず、自分のリズムで餌を食べるようになります。体が快適で食べたい時に餌があるという安心感が乳牛の行動をゆったりとさせ、体の機能が余裕を持って高い乳生産に向けられます。
 さて、カウコンフォートの向上を目指して牛舎改造にチャレンジされ、ついに成果を上げられた土山町の山本俊雄さんについてご紹介します。

●試行錯誤の牛舎改造
 改造は農協を中心に私達も協力する形で昨年6月にスタートしました。事前に村上明弘先生から具体的なアドバイスをいただいていましたが、なにせ県内初めての試み。そう簡単には行きませんでした。本当に手応えを感じたのは約1年を経過した最近のことです。
山本牛舎が抱えていた問題は飼槽とません棒とロストルの牛床でした。まずソフトなマットレスを敷き、くぼみ型飼槽をかさ上げしてフラットにし、ません棒をニューヨーク式の水平1本レールにしました。試しに数頭分改造して牛を繋いでみると非常に楽そうでしたので、これはいけると改造を進めましたが、そのうちに大変な事態に陥りました。
 目の粗いマットの上に落とす糞と尿が混ざってグチャグチャになり、ヨロイ牛だらけになってしまったのです。牛は楽になっても乳房炎を誘発しては何にもなりません。しかも牛床の除糞作業が増えてしまいました。そこでマットを10p短く切り、牛が前に立たないよう水平パイプもません棒に戻しました。牛は再び窮屈な生活を強いられたにもかかわらず、牛床の汚れは解決できず、一時は断念することも考えられました。

●カウトレーナーが成功の鍵だった
 今思うと、これ程安くて役に立つ道具がなぜ本県では普及しなかったのでしょう。あれは牛にストレスを与えるから駄目だと言う人がいます。山本さんも迷われた末、今年3月にようやく設置に踏み切りました。村上先生曰く「技術はその意味を理解して使わないから失敗する。」要は使い方次第。正しい位置に付ければ、牛は上手に電気を避けて牛床の外におしっこをします。牛床の後方に立つ癖がつくので糞も外へ落とします。次ページの使用前・使用後の写真を見較べれば、その絶大な効果がおわかりいただけるでしょう。「カウトレーナーを付けたら3日で糞掻きが楽になり、10日で牛床が乾き、半月すると牛がきれいになった」とは、山本さんの言葉です。牛舎改造をやるなら真っ先にカウトレーナーをお奨めします。

●目覚ましい変化
 カウトレーナーのおかげで、ません棒を再びニューヨーク式に直すことができ、安い塗料を見つけて来て飼槽に塗りました。その結果、連鎖的に多くの変化が起こりました。食滞がなくなり、乳房炎が減り、初産の乳量が楽に30sを越え、高泌乳牛が痩せすぎず乳量の持続が良くなりました。実際に牛舎に来て牛を見ればその変化は一目瞭然。牛体は汚れ少なく、首ダコも消えました。大半の牛が寝そべって反芻している様は壮観です。そしてもっと嬉しいことは仕事が非常に楽になったこと。かつてはたっぷり30分かかっていた飼槽の掃除が5分から10分で終わり、しかも乾燥して清潔です。牛床も乾燥して乳房が汚れないため、搾乳作業が気持ちよく楽になりました。

●牛舎改造は楽し
 山本さんが改造に取り組まれた動機は、「これからは自分で努力して生産を上げ、糞尿処理にかかるお金を残しておかなければ」という危機感と、「65歳までの後10年、楽しく酪農を続ける基礎づくりをしたい」という思いでした。今、一年を振り返って、「牛の様子を見ながらあれこれ工夫してうまくいった時に非常に喜びが感じられた」とおっしゃっています。山本さんの取り組みは終わったわけではなく、現在もウォーターカップを高い位置に付け替えて飲み易くしたり、盗食防止バーの制作にかかっておられます。その先の目標はきめ細かい餌管理です。前向きな姿勢が新しいアイデアを生み出します。
 改造におつきあいした私達も牛を観察することや最後までやり遂げることの大事さなど多くを学ばせていただきました。関係機関の間では、安くて効果のある様々な方法を蓄積中です。ご相談下されば関係機関の担当者達があなたの頭の一部になって考えます。

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