乳質とは何か。15年ぐらい前に乳脂肪の取引基準が3.2%から3.5%に引き上げられた。この乳脂肪も乳質の一つ。他に無脂固形、乳蛋白、乳糖、これらを含めた全固形、体細胞数、細菌数といったところが乳質と呼ばれるものです。乳脂肪をはじめとする乳成分の乳質向上は、最近では、牛の改良、飼養管理特に粗飼料(乾草)の給与によりほとんどの農家で問題のない数字となっている。
細菌数については、バルククーラーの普及、衛生管理の向上により、改善されている。一部夏期等に、バルククーラーの故障や電源の入れ忘れ、搾乳器具やバルククーラーの洗浄不足により悪くなる事もある。しかし、細菌数の悪化は比較的原因がはっきりしているので、改善も早く対応が出きる。
乳質向上(乳質改善)で一番問題となるのは体細胞です。体細胞(乳房炎)の原因は複雑で色々な要素がからみあって発生する。(図1)
乳房炎の発生の要因の一つとして搾乳作業があります。搾乳は、酪農では最終段階で、耕種でいうと収穫作業です。この最終段階で起こす失敗は損害が大きいのです。料理を例に取り上げると、材料が少々悪くても料理方法や味付けなど様々な対処が考えられるが、刺身を食べる直前に醤油とソースを間違えてかけたりすればもうお手上げである。つまり初期の段階での失敗は、致命的なものでない限り、ある程度取り返すことが出きる。また、致命的な失敗であっても、損失は少なくてすむ。しかし、もうすぐ完成という段階で起こす失敗は取り返しがつかなくなることが多く、かつその損害も大きい。牛舎の設計、建築、子牛の哺育、育成自給飼料、糞尿処理、飼料給与、分娩、受精、削蹄、機械の修繕など膨大な時間、労力、投資の結果が、換金作業である「搾乳」である。それ故、間違った搾乳作業は極めて大きな損失となる。搾乳作業は、365日朝晩毎日の作業であり、作業に習慣が付いていて、改善しようと頭でわかっていても、つい慣習・惰性で改善が出来ません。しかし、悪い習慣・間違った作業をしていたのではいつまでも乳質向上・乳房炎撲滅にはつながりません。今回は搾乳作業でやってはいけないことを整理しました。
1.素手で作業する
手指は細菌で染されている。十分に手を洗浄・殺菌しても指紋や爪などに入っている細菌を落とすのはむずかしい。搾乳作業途中で手は汚れる。ゴム手袋をしていれば手に着いた殺菌を容易に洗い落とせる。
2.搾乳前・中に牛を興奮させたり、ストレスを与える(図2、3)
搾乳中、大声で牛を叱ったり、牛を蹴飛ばしたり、叩いたり。また、毎日搾乳時間や作業する人が変われば牛はストレスを受けます。牛がストレスを受けていれば、射乳ホルモンに対抗するアドレナリンが放出されスムースな射乳を妨げ、残乳が多くなる。
3.ユニットの装着が早い・遅い
装着のタイミングは、乳頭刺激から1分〜1分30秒です。装着が早すぎれば、乳頭基部にライナーがくり上がってしまい乳は出なくなります。遅すぎるとオキシトシンの放出時間内に乳が搾り切れず、残乳が多くなります。
4.乳房をお湯を使用して清拭すること
清拭乳頭だけでよい。乳房まで拭く(洗う)ことが最もよくない。乳房全体を細菌学的にキレイにするのは不可能である。
プレディッピングでの乳頭清拭法
(1)きれいな乳頭に実施する。汚れている場合は、ディッピングを数回繰り返す。
(2)乳頭の2/3以上を確実にディッピングする。
(3)ディッピングして30秒以上放置する。
(4)ペーパータオル等で確実に拭き取る。
プレディッピングはお湯(水)を使わない、搾乳方法として乳房炎の予防に効果があります。特に環境性乳房炎を防止、新規感染を約50%低下できます。
5.乳頭清拭後に乳頭に触れること
正しい搾乳手順は、(1)前しぼり、(2)乳頭清拭(プレディッピング)です。せっかく乳頭清拭できれいにしても、また、手で触れれば細菌が付着します。
6.ユニット装着時に「シャー」とエアを流入させること
ユニット装着時にエアの流入は、当該のクロー内圧はもちろん、搾乳中の他のユニット全てが悪影響を受ける。ライナースリップや装着時のエアの流入は乳房炎の原因となる。
7.ライナースリップを放置すること
搾乳中は、ミルククローの方が乳頭槽内よりも陰圧は高い、その為陰圧の低い乳頭槽内から高いクロー内へ吸い出される。ところがライナースリップなどにより。大気圧がクロー内に吸い込まれると陰圧のバランスが逆転する。クロー内よりもライナー内の陰圧が高くなり乳がクローからライナー側へと吸い上げられることがドロップレッツ(図4)で、乳頭孔を傷付け乳房炎の原因となります。
<ライナースリップの防止・予防>
(1)エアを流入させない。
(2)ユニット装着時乳頭を乾燥させる。
(3)ライナー内側をぬらさない。
(4)マシンストリッピングはしない。
8.マシンストリッピングをすること
正しい搾乳刺激と装着のタイミングが実施されていればマシンストリッピングをしながら乳房をもむのは更によくない。マシンストリッピングは、人為的にライナースリップを引きおこしているのと同じである。
9.終了のタイミングをミルクチューブをつまんで確認すること
ユニットをはずすタイミングをミルクチューブをつまんで確認することはクロー内圧の変動の原因となりライナースリップの原因となる。
10.陰圧がかかったまま、ユニットをはずすこと「ひったくり」
シャットオフバルブを閉じて完全に陰圧を遮断し、1〜2秒ユニットを支えて自然にティートカップが落下してはずす。陰圧がかかったままだと乳頭に損傷を与え、乳頭槽や乳腺に刺激を与え乳房炎の原因となる。
11.後搾り、離脱後、乳頭に触れること
乳牛から乳を完全に搾り切ることは無理です。乳牛は常に乳を生産しています。ユニットをはずした後の乳頭が一番清潔な状態です。この時に乳頭に触れることは、殺菌を付着させることになります。離脱後は、直ちにポストディッピングを実施しましょう。ディッピングは必ずディッパーを使用しましょう。ディッピングは乳頭全体をディップすること。
12.離脱後、クロー内のミルクをエア送りすること
これは特に悪い習慣です。バキューム自体の圧が変動する。
13.ミルカーのドブ漬け
搾乳を終わって次の牛に移動する前に、消毒の目的でユニットを殺菌剤の入ったバケツでドブ漬けする。ライナーを完全に殺菌しようと思うと無理ではないが、非現実的である。ライナーの中が濡れるのでライナースリップの原因となるのでやめた方が良い。
以上13項目について搾乳作業でやってはいけない事を書きました。まだまだあると思います。また、以前は推奨されていた技術も現在では見直されている技術もあります。酪農家の人が搾乳作業を見たり、逆に自分の作業を見られたりといった事はあまりないと思います。その為、現在自分が行っている搾乳方法を変更するのは容易なことではないと思います。しかし、多くの場合何かを変えるためには資金(お金)が必要ですが搾乳作業の変更はタダです。タダで金もうけになるのならすぐに実行してください。幸いにして?現在、滋賀県(一部を除く)では体細胞に対してペナルティー制度が導入されていません。しかしペナルティーが導入していないから体細胞が高くても良いというものでもないのです。体細胞が高い事は、乳量で損失をしているのです。このことを十分に認識して間違った作業を見直して、良質な牛乳を出荷して下さい。